みんな大好き「とんかつ」の魅力と美味しさ。

創業40年になる川崎の本店から、こだわりと技術を受け継いで2006年に代々木上原に開店したとんかつ屋「武信」。国内では有名百貨店で取り扱われるだけでなく、ミシュランガイド東京のビブグルマンに2度掲載されるなど、非常に高い評価を得ている。近年は海外のとんかつ専門店のプロデュースやコンサルティングも行う。

(代々木上原の閑静な商店街の一角にあるお店の外観)

そんな「武信」の店主、武田和也さんにとんかつのこと、お仕事のこと、海外展開のことを聞いてみた。

目次 - content -
第1回 「とんかつ」の魅力と美味しさ  
第2回 自分の個性を活かして起業する方法
第3回 海を渡る「とんかつ」      


第1回 「とんかつ」の魅力と美味しさ


末吉

武田さんは、お父様もとんかつ屋さんの店主でしたよね?ある意味、小さい頃から慣れ親しんでいる「とんかつ」について、武田さんが思う「とんかつ」の魅力を教えてもらえますか。


武田
とんかつ屋は、10年~15年前は、定食屋というイメージで男性が行くお店という感じで、男臭いイメージがありました。けど今は、家族連れや女性一人でも入れるお店が増えてきていますよね。


末吉
確かにそうですね。


武田
味もだいぶ変わってきているんですよ。うちの武信の場合は、こってりした「とんかつ」ではなく、さっぱりした「とんかつ」。油は、米の糠から抽出して作った油の「米油」を使うことで軽くさっぱり揚げて、豚肉もさっぱり目のお肉を使って調理しています。


末吉
だから武信さんのトンカツは、あっさりしていて胃がもたれないんですね。


武田
最近は、ロースの脂身を塩で食べたりしますよね? これは、他の店でも昔はなかったように思います。ちなみに、武信では、塩は「パキスタンのパハール岩塩」で脂身の甘みを引き出す味にしています。


末吉
お肉や衣だけじゃなく、お塩にもこだわっているんですね。武田さんは、「とんかつ屋さん」を使って、お客さんが喜ぶこと、ご自身がしたいことを表現されているように感じます。


武田
そうですね。職人として「とんかつ」を突き詰めていくことだけでなく、新しいものを作っていくことも好きですね。


末吉
ちなみに、武信さんのお客さんはどんな方が多いのですか?


武田さん
家族連れもいらっしゃるし、サラリーマンも女性グループ、年配の方もいらっしゃいます。男女比もちょうど半々くらいだと思います。よく飲食店経営をする場合は、ターゲットを決めてそのターゲットに合わせてメニューや店作りをするということもあるのですが、武信の場合は、幅広く、色んな方たちにいらしていただける店作りを意識しています。気軽に日常使いしていただける店づくりを心がけているんです。中には、週一ペースでいらしてくださいるお客様も多くいらっしゃいますよ!


末吉
ついつい、通ってしまうとんかつ屋ですね!


武田
普通ではありえないかもしれませんね。ヘビーな「とんかつ」を食べると「当分食べなくてもいいかな」とか、1ヶ月に1回のペースくらいでいいや、と思うのが普通だと思います。


末吉
確かに。では、武信さんについ通ってしまうのは、なぜなんでしょうか?


武田
うちのとんかつは食べた後「揚げ物を食べすぎた!って感じにならない」とおっしゃるお客様が多いですね。それに、うちの場合は、とんかつ屋としては結構席数が多いですし、しかも居酒屋のようにお客さまの滞在時間が長いわけでもないので、よく回転もしています。なので、多くのお客様にいらしていただいてはいるものの、大体の場合、お待たせすることなく「入れる」ようになっているところも、構えずに「行きやすい」と感じてもらえているポイントなのかもしれません。

武信さんの「とんかつ」のこだわり



末吉
そういえば美味しいです、武信さんのお新香。


武田
お新香は、出来合いのものを出しているお店も多いのですが、武信では毎日糠の状態を見て漬け時間を調整したり、新しい糠と塩を足して管理しています。そんな風にお新香に気合いを入れている分、実はお新香の評価が高いんです。その糠は、オープン当時に実家のとんかつ屋で使っていたものを分けてもらっているので、40年以上の糠床になりますね。夏場と冬場の加減は変わるし、ちょっとしたことで味が変化してしまって簡単に修正が効かないから、常連さんからは、お新香の味のダメだしが入ることもあるほどです。


末吉
それは、すごいですね!「とんかつ」の味の嗜好も変わったりするんでしょうか?


武田
世の中全体としても、15年前、20年前の「とんかつ」が載っている雑誌の写真を見ると、明らかに違ってきています。昔からあるとんかつ屋さんにも変化が起こっていますね。30年前の実家の「とんかつ」と今出している「とんかつ」を、直接比較することはできないけれど、昔の揚げ方とは全然違ってきているように思います。世の中の嗜好も変化しているから、それに合わせて揚げ方も自然と変化してきているのではないでしょうか。大きく変わったのは、一昔前ほど、火を通しすぎないようにしているお店が、最近では高い評価を受けているようです。


末吉
なるほど、そうなんですね。



末吉
お店を続けてくる過程で、これは大きく変えたという経験はありますか?


武田
値段はそのままで、グラムを増やしたことがあります。お客様からすると、せっかく「とんかつ屋」に来たんだから、自宅ではあまり食べないような厚みの「とんかつ」を食べたい、と思うだろうから、肉に厚みを持たせることが良いよねということになりました。「とんかつ」そのものを、より満足してもらえるように変えたんですよ。

末吉
へぇー、つねにお客様視点ですね!


武田
ありがとうございます。

変化させているというと、オープン時はメニュー5種類くらいからスタートして、どんどん種類を増やしてきました。メンチカツなんかも途中から、メニューに加わっているし、生姜焼きは提供の仕方を進化させています。同じグラム数で、3枚だったのを食感が硬いから4枚に変えたりとかね。タレも、美味しくなるように工夫して変えてきましたね。


末吉
そういう姿勢が、武信さんの愛される理由なのかなと思いました。


武田
「これはこのままでいいか?」ということを常に考えているから、自然と少しずつ状況に合わせて変えています。僕が他の店で食べにいって、「これいいかも!」と思ったことを店でスタッフにアウトプットしながら意見を聞いて変えたりしてるんですよ。最近だと、あるきっかけでタルタルソースも変えました。


末吉
そうなんですか~!?


武田
これも、僕が他店へ食べに行ったりして客観的に自分の店を観るようにしているから、「とんかつ」の味やお店の進化のきっかけが生まれるんだと思います。

豚肉の品質の差が、商品の差を決定づける


武田

美味しい「とんかつ」を提供できるのは、本当にお肉屋さんのお陰なんです。


末吉
なるほど、そうなんですね。


武田
オープン当時から、お付き合いするお肉屋さんが3、4社は変わっています。それくらい、より良い肉を求めることが大事なんです。その結果、今のお肉屋さんにたどり着きました。今の肉屋さんは、武信が求めている肉を理解してくださっているから、セリでも希望の肉を仕入れてくれています。うち独自の安定した肉が確保できるようになるまでは、やりとりは色々あったんですけどね(苦笑) 時には、うちの店の基準に合わない場合は返品もしていました。長年の付き合いの中で積み上げてきてものがあるから、今があるんです。


末吉
なるほど、とんかつ屋をやっていく上では、ただ料理の腕を磨けばいいわけではなく、取引先との信頼関係など、細かいことを積み重ねることも大切になるんですね。



扱う食材は少ないが、奥が深い


武田

扱うものがシンプルでもある分、細かいことはお店それぞれ違いがあります。


末吉
どういうことですか?


武田
お店それぞれで、パン粉の付け方から油の温度、揚げ方、提供の仕方など、本当にそれぞれ違いがあって、それがお店の個性として、とんかつに表現されているように思います。


末吉
武信さんにとって、最高のとんかつ作りで大切なことは何でしょうか?


武田
まずは、「とんかつ」は揚げる調理だけでなく、その前の仕込みもかなり重要だと思いますね。仕込みの段階で、半分決まってしまいます。仕込みは肉を仕入れて、肉の骨や筋を取り除いて揚げられる状態にするまでの過程です。
そして、家庭では食べられない厚み。なおかつ、火が通り過ぎず、でも中身はレアでもなく、カットした時に肉汁がちょっと出てくるくらいの火加減。パン粉もつきすぎず、少なすぎず絶妙な分量。これだったら、間違いなくお客さんが喜ぶだろうなというイメージがあるんです。言葉では伝わりにくいかな(笑)だから、揚げた後にパン粉がつきすぎているなという時は、立ちすぎたパン粉をとったりしています。


末吉
そういう細かいことが大事なんですね。


武田
自分が料理の全部を仕切っていた時は、自分だけで完結するけど、人にやってもらっている今は、細かいことも決めてできるだけルールを細かくしています。例えば、仕入れた肉に小さな肉や、太いのが来てしまった時は、「こういう仕込みをする」ということを図に書いたりして、共有しているんです。自分の中で、こうだというものを共有する時は言語化することを意識しています。そして、今の料理長はそれを理解してくれているから、信頼して任せられています。


末吉
なるほど。


武田
そして、なによりも、同じことをやり続けることが大切なんですよ。


末吉
ほぅ、同じことをやり続けること? ですか。


武田
今のお店の課題は、どんどん忙しくなったり、他にも色々なメニューがある中で、一定の品質を保ち続けることなんです。ホールスタッフのオペレーションは、ポスレジを入れることで効率化はできたのですが、どんどん注文がくることで、調理をする者は品質だけでなく、スピードも求められるようになるなど、いっそう大変になりました(汗)


末吉
そういう時って、気持ちの問題も出そうですよね。


武田
うちの料理長は、淡々とこなせるからすごい。本当に忙しい時は、終わってからメンタル的にきつかったと軽く愚痴をこぼすこともあるけれど、品質は保っているんですよ。もし、プレッシャーにやられてしまうと、揚げ忘れとかが起きたりします。「とんかつ」であれば大丈夫だけど、ミックスフライとなると「エビ一本忘れた」など、心が乱れてしまうと、他にも影響が出てしまいますね。


末吉
わー、それは大変だ。


武田
どんどんオーダーが入ってくる時には、早く出さなきゃと焦らず、伝票がたまっても、淡々ときっとこなしていくことが大切。精神状態が安定していないと、きちんと美味しいものを揚げられません。料理長に任せるようになって現場を離れることも増えている今は、揚げを担当してお店が忙しくなると、かなりのプレッシャーですね。自分にとっては、魚介など細かいものも入れると一日何百個揚げる中のひとつだけれど、お客様にとっては唯一の1枚、もしくは1個になりますからね。


末吉
いいクオリティで料理を出すということを常に求められている、まさに職人という感じですね。仕事の質がそんなところに出て来るとは驚きです。



武田
グループで来店された場合には、一つのテーブルに同時に料理を提供できるように、揚げる順番の段取りも考える必要もあります。厚いもの、揚がりにくいものの順に入れてタイミングをみて、フィニッシュを合わせて、味噌汁もテーブルごとに温めて、ご飯の提供も全部合わせたり。


末吉
徹底して、お客さま視点に立って考え、行動するからこんなに美味しいんですね!!美味しいものを淡々と作る職人ではなく、来店したお客さまの全体の満足度を上げることを徹底していて、ホールと厨房の両方を知っているからこその視点という感じがします。

だからかもしれませんが、武信さんには、リピーターのお客さんがすごく多い印象があります。実際にぼくの友人たちも、もう何回も通っているヘビーユーザーだし、ぼく自身も1年で10回くらいは来ていると思います(笑)


武田
ありがとうございます。

(第2回「自分の個性を活かして起業する方法」につづきます)

とんかつ 武信

主に千葉県産のSPF豚を使用し、こめ油で揚げた「とんかつ」を御膳や丼にして提供。魚介のフライメニューも用意するなど、「とんかつ」専門店でありながら豊富なメニューを用意。夜間営業では豊富に取り揃えたアルコール類も楽しめ、昼夜で異なる雰囲気の「とんかつ」を楽しむことができる。

所在地: 〒151-0066 東京都渋谷区西原3丁目1−7
電話: 03-3466-1125

営業時間:[火~金]
11時30分~14時00分 (L.O.)
18時00分~21時45分 (L.O.)

[土・日・祝]
11時30分~14時30分 (L.O.)
17時30分~21時30分 (L.O.)

公式HPhttp://take-shin.net/bunten/
公式ブログhttp://take-shin.net/wp/

追伸、、、
ロースやヒレといったとんかつが美味しいのはもちろんのこと、武信名物である「醤油かつ丼」も旨いんですよ。

これですよ、これ。
写真なのにこのインパクト。

この記事を書いていたら、ご飯を食べたあとだけれどお腹が鳴ってくるなぁ。

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深呼吸、深呼吸〜。
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末吉 宏臣

お店

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