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自分を大切に扱ってあげて。

 妻が料理をしているあいだ、僕は娘をお風呂にいれる。頭やお顔やからだを洗ってあげるのもラクじゃないけれど、お風呂からあがったあとも大変だ。脱衣所の床にバスマット、そのうえにバスタオルを敷いて、娘をいったん寝かせる。その隙に自分のからだをダッシュで拭く。ワシャワシャ拭く。

 できるだけ急ぐんだけれど、そのちょっと間でも娘は許してくれないことがある。容赦なくわんわんと泣く。ゴロゴロと激しく転がりまわったり、両足をバンバンと床に叩きつけながら。きのうの夜がそうだった。さて、どうしたものかと僕は考える。

 歌うことにした。「○○ちゃんは♪」娘の名前を呼びかけることから、その歌は始まる。「お母さんとっ、お父さんのっ、宝もの〜ですよ〜ぉ🎶」音符マークで誤魔化そうと試みたが、そのリズムを聞いたら笑っちゃうか、呆れられると思う。それくらい、下手だ。さらには、歌といいながら、このワンフレーズの無限リピートで構成されている。それはもう歌とは言えないかもしれない。でも、いいんだ、そんなこと。気持ちが入るんなら、なんでも。

 バスタオルで濡れたからだを拭きながら、時間にして1分少々、ワンフレーズを繰り返すこと十数回。僕は不思議な感覚に包まれた。娘のことがほんとうに愛おしく感じた、と同時に、亡くなった父のことを思い出したのだ。あぁ、親父も、僕のことをこんなふうに想ってくれてたのかな。目尻ににじむ涙をバスタオルでぬぐった。

 両親にとって宝ものである、僕。そこには理由なんてない。問答無用にそうなんだ。自然とそう思えた。僕は、そんな僕を、大切に扱ってあげなきゃね。その場にかがんで、泣いている娘をやさしくバスタオルでくるんで抱きあげた。「お母さんとこ、行こうか」

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 きょうも読みにきてくださって、ありがとうございます。娘に振り回される僕の姿を微笑ましく思って、お父さんがふらっと天国から遊びに来たのかな。いつでも来てね〜。

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テイク・イット・イージー
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物書き、編集者。年内フォロワー1万人を目指してます。応援よろしくお願いします。小説集『ブンガクフリマ 28ヨウ』に短編小説が掲載。ツイッター:https://twitter.com/hiroomisueyoshi

コメント4件

中学生の息子でも寝顔はいとおしいです。きっとおじさんになっても「おじさんになったな~」といとおしい気持ちになると思う(笑)
そうですか〜、そうですか〜。たのしみだなぁ〜😊
お父様との対話いいですね!それだけで一生を幸せに生きていける気がします。
そしてそれは、次の世帯にも受け継がれるわけです。広がれば世界の平和に繋がる。世界平和は一人ひとりがそうあることでしか訪れない気がしています。
ほんとうに、亡くなったとしても、いやもしかしたらだかこそできる、対話や交流もあるのかもしれないと、やっと少しずつ思えるようになってきました。
そうだなぁ。世界平和というとおっきな話に感じますが、おっしゃる通りなのかもしれないですよね。ほんとに。
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