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【連載】 第3回 「人との縁」と「心に響く作品」 (話し手:チカツタケオ)

村上春樹さんの『騎士団長殺し(新潮社)』をはじめ、湊かなえさんや東野圭吾さんなど著名な作家の装画(表紙の絵)、雑誌・文芸誌の挿絵など、数多くの素晴らしい作品を手がけるフリーランス・イラストレーター、デザイナーのチカツタケオさん。今回はチカツさんのお仕事のこと、ご自身が描きたい絵のこと、ピンチの切り抜け方、今の若いクリエイターたちに伝えたいことなど、たっぷりとお話を訊いてきました。

チカツタケオさんの仕事

第3回 「人との縁」と「心に響く作品」

末吉
村上春樹さんなどの著名な作家さんは、生き方や表現の仕方を工夫されているように思うんです。同じことを、チカツさんもやられているように感じて。だから、著名な作家さんたちとの仕事が、縁としてくるのかなぁと。

ただ何の進化もなく、本当に技術的に絵だけを描いている人だったら、縁さえこないんじゃないのか。僕は時々、そんなふうに感じることがあるんです。

チカツ
あぁ、それはなくはないと思います。たとえばお金を得る仕事に関していうと、何かをやっておいたりとか、行動しなければ、なかなかチャンスはこない。元新潮社の装幀室長だった、髙橋千裕さんという方がいらっしゃるのですが、髙橋さんとお仕事をしたのは、村上春樹さんの「騎士団長殺し」の装画のときが初めてなんですね。そういったお仕事のチャンスは、自分で行動を起こしたことからやってきたとも言える気がします。

末吉
髙橋さんとは、どのようにして出会われたんですか?

チカツ
たまたま以前から興味あったイラストレーターの個展に行ったときに、その初対面のイラストレーターの方が「チカツさん、髙橋さん知ってる? 紹介するよ」って同じタイミングで観に来ていた髙橋さんを紹介してくれたんです。もちろん髙橋さんのお名前は以前から知っていましたけど、お会いするのは初めてでした。そこからのつながりです。

末吉
へぇ~、そうだったんですか。そのあとどういう流れで、「騎士団長殺し」の装画のお仕事につながったんですか?

( 村上春樹さんの『騎士団長殺し』の装画 )

チカツ
髙橋さんは、僕の絵を知っていたようなんです。新潮社さんで湊かなえさんの装画などをやっていたので。髙橋さんがデザインを担当することになって、村上さんとの打ち合わせのときに、村上さんから「日本画っぽい写実の絵を描ける人はいない? 」って聞かれたのかな。詳しくはわかりませんが、そのときに僕が浮かんだらしくて。

末吉
その浮かぶっていうことが、なんだか上手く言えませんが。響くものがあったのかなって感じるんです。髙橋さんはこれまでにも、たくさんの方とお会いされていると思うのですが、よく「響くものがある」っていうじゃないですか。きっと髙橋さんの中で、何かそういった部分はあったんじゃないかと思うのです。

チカツ
あったんだとは思いますが、それはわからないですね。僕が描きたい絵しか描いていなくて、経済的にピンチに陥ったあと外に出るようにして。そういった流れで以前から興味あったイラストレーターの個展に行っていなかったら、髙橋さんと出会っていないんですよね。あのとき、髙橋さんにお会いして名刺交換をしていたことが、仕事の依頼につながったのかもしれないですね。

末吉
会って名刺交換をしているか、していないかは大きいですよね。

チカツ
相手の存在を知っていても直に会っているかどうかで、「仕事を依頼できる、できない」は違ってきますから。

末吉
それは、すごく大きな違いですよね。

チカツ
はい。だから、直にあって名刺交換していたのは、すごく大きかったな、とは思います。

末吉
本当にそうですよね。

チカツ
だってやっぱり、そこで「こういう人に、仕事を頼むことはできそうかな?」って見られているわけで。

末吉
「一緒に仕事はできるかな?」とか。

チカツ
「期限を守ってくれるかな?」とか「秘密を守ってくれるかな?」とか。

末吉
いや~、そういったところは見られているんでしょうね。

チカツ
重要な仕事や大きな仕事になればなるほど、直に会うってことは大切ですね。今回も外に出たからこそ、髙橋さんに会う機会があったわけで。今はインターネット時代になって、もちろんネットでも依頼は来ますが、そういう行動もしていった方が、チャンスは増えると思っています。結局仕事となると人だと思うし。

末吉
でもその背景に、チカツさんが色々挑戦してきたものがあって。それが絵に表れて髙橋さんの何かに触れて、という感じなのかなという気はします。名刺交換をした人、全員がそうなるわけではないので。それって何なんだろなぁと、いつも思うんですよね。

チカツ
僕ね、自分の絵を見て何か言ってくれた人の中で、一番嬉しかった言葉があって。以前、「クリエイターEXPO東京」っていう展示会の、1回目のときに参加したことがあったんだけど、そのときは、ただ自分の絵を置いただけで。売り込みっていうよりは、一般の人の反応を知りたいって思って参加したんです。

末吉
なるほど、一般の人の反応ですか。そのとき、何か反応はあったんですか?

チカツ
静岡で英語学校を経営している、社長さんだったかな? その社長さんが何回か通りかかって、戻ってきたんです。そのときに僕の鉛筆の絵を見て「何か気になって戻ってきたんだよね。ただ、鉛筆を描いているだけに見えるのに。何かひっかかる絵だ」ってとても褒めてくれて。それが、僕は一番嬉しかったかな。絵を見ることに慣れてる人じゃなくて、普通の人が何かひっかかってくれたから。

( いつもと違った絵を探るためのイラスト )

末吉
その方は、チカツさんの絵から何かを感じたってことですよね。

チカツ
20代の美術受験予備校に行ってた頃、「技術的には問題ないけど、なんかつまらないよね」って言われていた時代とは、違うことができ始めているのかなって感じましたね。僕がいま目指しているのは、絵を知っている人が興味を持ってくれることより、絵を知らない人が何かを感じてくれることだから。そういった背景もあって、そのときの英語学校の社長のコメントが、とっても嬉しかったです。

末吉
それはやっぱり、チカツさんが色々挑戦してきたものを、絵から感じたってことですよね。それってすごくいいなぁと思います。

ところで、チカツさんの中で「理想の生き方」みたいなものはあるのですか?

チカツ
理想の生き方? 難しいですね。自分のやりたいことをしながら、生活できることですかね。多くの人が同じような気持ちだと思うけれど、すごいお金持ちになりたいとか、すごく自分のわがままに生きたいとか、そういう気持ちはないんです。

でも、何かを創りたいって思ったときに、それをやっていく上で不自由がないだけの収入があって、気持ち良く制作に取り組める環境があってくれれば最高ですね。

末吉
自分が思っている何かを、創れる環境ですか?

チカツ
ようは住む場所とアトリエを含む環境があって、それで生活ができるのであれば、それ以上必要はないですね。その前にもちろん健康であることが最重要ですが。

末吉
なるほど。

チカツ
今でもできるだけそういった環境をつくっていけるように、試行錯誤しているだけじゃないのかな、と思います。

末吉
今もほんとに、そこに向けてやられているってことですもんね。バランスを考えたり、ちょっとずつライフワークで描いている絵をやってみたりしながら。その生き方に至る、「道」を模索している、っていうことですよね。

チカツ
20歳代から「装画の仕事がやりたい」というのがずっとあって。とりあえず、そこは達成できたので、 そうするとやっぱり変わってくるんですね。村上春樹さんの装画までできるとは思ってもみなかったし。

末吉
いやぁ、そうか。そうかもしれませんね。

チカツ
そうしたら、やっぱり次は受け身じゃなくて自分から発信することで、生活できる環境を探したいという欲求も出てきます。じゃないと、僕の場合はマンネリ化して飽きてしまう。装画のお仕事は、毎回作家さんや本の内容も違うので、もちろん今も楽しいことは楽しいけれども。

( 金城哲夫さんの『ウルトラセブン』の装画 )

末吉
テーマは違うって感じですよね。

チカツ
でも、やることとしては、漠然と作業をしているだけだったらマンネリ化してくる部分もなくはないですね。

末吉
それは、そうですよね。

チカツ
だから、違う場所も探しに行かないと飽きてしまう。飽きてしまうと、絵の質も落ちるし。

末吉
何かが欠けてきちゃうっていう。

チカツ
成長もできないですし。淡々とした生活で終わっちゃうから。

末吉
カッコよくいうと、「魂が死んじゃう」みたいな感じなのかなと。

チカツ
うーん、それはカッコよすぎるけど(笑)。違う場所を見つけられれば、元の見慣れた場所もまた違った角度から見られるようになると思うし。

末吉
あぁ…なるほど。チカツさんは、いつもマンネリ状態に陥らないように、大変な環境に陥りながらも、新しい道を見出していこうとされている印象があります。

( チカツさんの仕事場に置かれた一枚の絵 )

チカツ
振り返るとそうなるのかな。ある程度やっていくとマンネリ化していくし、飽きてくる。それでまた違うところを見つけたり、ということに当然なっていくから。見つける方が常に新しい発見ができて、自分にも成長がありますし。また違う展開ができるじゃないですか。

ただ1本柱を決めておかないと。あれをちょっとかじって、今度はこっちって目的もなく中途半端にころころ変えていっても結果的に何も得られない可能性もあります。マンネリにならないようひとつのことを継続することが大切だと思います。

末吉
ほんと、そうですよね。ルーティンに陥らないように模索できる人が「魂を失わない作品」というか。何か感じるものを、創り続けることができる人なのかもしれませんね。 


( つづきます )

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【 profile 】
チカツタケオ
デザイン事務所数社に勤務の後'98年よりフリーランスイラストレーター、デザイナー。'06年青山塾イラストレーション科修了。’06年9月〜'08年2月南仏Aix en Provence滞在。’07年ザ・チョイス年度賞優秀賞。'09年第8回TIS公募金賞。

CHIKATSU's works

【 website 】
http://www7b.biglobe.ne.jp/~chikatsu/index.html

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物書き、コンテンツプロデューサー。フランス移住を一時断念し帰国。あなたの人生が動き出す本『ヴェヴァラサナ王国』を1日1ページ更新中。ツイッターも。https://twitter.com/hiroomisueyoshi
コメント (1)
「一般の人の反応」というお言葉がとても印象的でした。
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