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わたしの仕事を奪わないで。

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 妻が僕に言った。

「わたしの仕事を奪わないで」

 僕は壁にかかった時計を見上げながら、前に娘におっぱいをあげた時間を思い出して妻に伝えようとしていた。え〜っと、たしか夕食の少し前だったから、、という具合に。そんなときに毅然とした態度でピシャリと言われた。なんともまぁ、不意打ちであった。

 このnoteでも書いているが、僕はいま、半分セミリタイヤ状態で娘の世話をしている。お風呂に入れるのはもちろんだし、オムツもよくかえてあげる。うちでは紙オムツは使わず布オムツ派なので毎回手洗いでけっこうめんどうくさい。けれどもやっぱり娘の肌にはよさそうだから、これからも使っていく予定だ。あとは抱っこしたり、部屋を歩きまわってあやしたりもよくする。我ながらいいパパっぷりを発揮していると思う。

 しかし、おっぱいをあげることだけは、どう逆立ちしても叶わない。これは完璧に妻の仕事である。( あ、だからといって、彼女がオムツ替えなどをしないというわけでは一切ありませんからね ) なんだけれども、おっぱいをあげる"時間"についても僕が目を配ってしまう。娘かわいさに、ついつい口出ししてしまうという。。

 そんな僕に対して、妻は言ったのだ。

「わたしの仕事を奪わないで」

 言われたその瞬間は、頭がまっ白になった。何を言っているのかわからなかったのだ。こちらとしては、いいことをしている、くらいに思っていたのだから。しかしそのあとに、妻と話をして彼女の本意がわかって、頭を下げて謝った。

 人は責任やら仕事を奪われると無力化してしまう。

 これはじつは怖いことで。僕が彼女の負担をへらしてあげよう、サポートしてあげようとおっぱいの時間まで目配りして口出しすることは、単なる余計なお世話かもしれないのだ。彼女がやるべき、もしくはやると決めたことに関しては、へたに手助けをしてはいけない。そういうことをしていると、彼女を弱体化させてしまったりするのだから。

 これの厄介なのは一見すると、いいことをしているように見えることだ。ふつうなら否定されることではなく、むしろ素晴らしい旦那ですねと褒められるのがふつうかもしれない。さらには、僕自身も良かれと思ってやるのだから余計にタチが悪い。

 これは夫婦関係に限らず、仕事上の人間関係のなかでもよく起こっていることだと思う。その人が果たすべき責任を、代わりに、勝手に、背負ってあげて、その人を無力にしてしまう。その人は( 本当はそうではないのに )だんだんと仕事ができない人になっていったり、責任を持てないボーッとした人になってしまったりする。これはじつは、その人の問題ではなく、代わりに、勝手に、良かれと思って、その人を助けようとした側の人のせいかもしれないということなのだ。

 ということで、僕なんかは、けっこう知らぬ間に、一見するとわかりにくい加害者になってしまう傾向がある。それを知っている妻は鋭く、余計なお世話を見抜いて指摘してくれるから助かっている。

 ちなみに、余計なお世話をする側も、本当は必要ないのに無理して助けたりしているわけだから、疲れてしまったり、苦々しい犠牲感がつのってしまいがちなんですよね。

 ということで、時と場合と相手によって、どちらの側にもなる可能性があるから、注意しておきたいものです。

 今日も読みにきてくださって、ありがとうございます。昨日からスタートした定期購読マガジンですが、さっそく購読をはじめてくださった方がけっこういてくださいます。まだひと記事もないのに、うれしい限りです。

 ということで以下には、購読者のみなさま宛の文章を書きました。今日は松本清張・三島由紀夫・川端康成など多くの文豪達と交流・編集を担当した編集者から聞いたお話についてです。

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わたしの仕事を奪わないで。

末吉 宏臣

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末吉 宏臣

物書き、編集者。小説集『ブンガクフリマ 28ヨウ』に短編小説が掲載されています。年中無休まいにち夜の7時に小文を公開しています。いまより本気で人生と向き合うメルマガを月額400円で配信中です。ツイッターも:https://twitter.com/hiroomisueyoshi

末吉さんの文章喫茶店のようなところ

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コメント2件

少し遅くなりましたが、記事を読ませていただいて、どうしてもやり過ぎてしまう自分を感じました。それをどうしていくかは、これからの課題ですが、大切な気づきを与えてくださり、ありがとうございました。
気づきにつながったようでよかったです。そうそう、どちらかに偏ってしまいがちなんですよね。分野によっても違ったりで。僕もいつも微調整しながらやっています。
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