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もう帰ってこないあの時。

 目の前では妻が涙を流しています。お手製のあら汁をすすっているとき、彼女が小さいころに両親と妹さんと一緒によく行ったお寿司屋さんを思い出したそうです。そうして、あのころにはもう、戻れないんだとしんみり。気持ちというものは伝染するものなのか、「僕なんか、もう二度と父と話せないんだよな…」ポツリと漏らしました。

 沈黙をじゅうぶんに味わってから妻は言いました。「そういえばさ、もう生まれたばかりの娘や、物も握れなかった娘とは会えないんだもんね…」宙を見つめながら言った妻の目には、いまにも溢れそうな涙が浮かんでいました。僕は慌ててティッシュを引き抜いて手渡します。彼女はご飯を食べる手を止めて、しばらくのあいだ涙をぬぐっていました。

 あの時は、もう帰ってきません。そして、いまこの瞬間こそが、あの時なのです。目の前の娘を、妻をぎゅうっと抱きしめたくなりました。そして、ちょっと不思議に聞こえるかもしれませんが、こうも思ったのです。いま抱えている課題も愛おしい、なぁと。そのきっかけは、7年ぶりに会った友人家族。

 当時お風呂場でチョロチョロしていた子が大学受験の年、赤ちゃんだった子は物理学に興味を持つようなっていました。過ぎ去った時の重みを全身に感じながら、7年前の自分の姿がよみがえってきました。いまより貧乏だったし、自分の才能を活かした仕事ができていないし、彼女はいないし、ないないづくし…。苦しかったし、悩んでもいました。でも、それでも。歯を食いしばって前を向こうとしていた自分が目の前に見えて、抱きしめたくなりました。

 今日も読みにしてくださって、ありがとうございました。月並みですみません。しあわせって、目の前にあるものなのでしょうね。

 もう何十回も目の前を通っているのだが、この魚屋に入る勇気が、我にはまだあらない。

 みなさんの今日の晩御飯は何でしょう? リラックスした土曜日の夜をお過ごしくださいまし〜。



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うれしいニャー。
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末吉 宏臣

物書き、編集者。年内フォロワー1万人を目指してます。応援よろしくお願いします。小説集『ブンガクフリマ 28ヨウ』に短編小説が掲載。自分らしく生きるためのメルマガを月額400円で配信中です。ツイッターも:https://twitter.com/hiroomisueyoshi

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コメント5件

ありがとうございますー!
はい、この一時を大切にすべく、これより、650円替え玉2回無料のとんこつラーメンを没頭して食します。いただきます!
私もね、よく思うんですよ。
小さいお子さんの手を引いて歩いている若い親御さんを見て、「今❗今しかないよ、その幸せ‼️」と。
大きなオセワなんですけどねww(^o^;
いまだに、娘や息子がヨチヨチ歩きの頃に戻って、もう一度ぎゅ~って抱き締めたい‼️って。だから常に「今」なんですね🎵(*^^*)
ラーメンに没頭している末吉さんはそっとしておいて・・・・(笑)

ベッチーさん!
そうなんですね…。
今まさに1歳9か月の娘がいるんです。最近やっと走ることができるようになって、喜んで走るのでヒヤヒヤしてます。ベチャッてよく転ぶし。
これが、幸せなんですね
やだ泣きそう。
ベッチーさん、教えて下さってありがとうございます
リオナさん(*^^*)
そうそう、その幸せはあっという間に過ぎ去りますよ🎵
成長する楽しみもこれから沢山ですね❗あ~~、羨ましいですっ❗(≧∇≦)🎵頑張ってくださいね~✨
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