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【連載】第7回 創作活動をするなら、お金の話は大切 (話し手:チカツタケオ)

村上春樹さんの『騎士団長殺し(新潮社)』をはじめ、湊かなえさんや東野圭吾さんなど著名な作家の装画(表紙の絵)、雑誌・文芸誌の挿絵など、数多くの素晴らしい作品を手がけるフリーランス・イラストレーター、デザイナーのチカツタケオさん。今回はチカツさんのお仕事のこと、ご自身が描きたい絵のこと、ピンチの切り抜け方、今の若いクリエイターたちに伝えたいことなど、たっぷりとお話を訊いてきました。

チカツタケオさんの仕事

第7回 創作活動をするなら、よりお金の話は大切。

チカツ
理系の大学を卒業したあと理系の企業に就職していれば、今みたいな苦労はなかったかもしれないけれども。でもきっと「何か違う。本当は絵が描きたかったのに」と、思っていたんじゃないのかな。そう考えると、今の方がいいかなという気がします。結局、個々の選択であって、その選択は自分で責任を取らないといけませんから。

末吉
自分で選択できる人が、本当に強い人ですよね。今の時代、その強さを持てない人が多いような気がします。

チカツ
自分で責任を取りながら選択することは、すごく難しいから。

末吉
それは、とても強さを要求されることだと僕は思いますね。いろんな業界の中でも、その強さを持てる人と、持てない人に分かれるのかなぁと。

チカツ
強さを持っている人が、やっぱり成功しているんじゃないかな。

末吉
そうですよねぇ、僕もそう思います。

チカツ
強さを持っている上で、運もある人。

( 歌野晶午さんの『絶望ノート』の装画 )

末吉
そうですよね。それから、前提としてやっている人。たとえば、著名な作家さんたちは、生き方や表現の仕方というような「在り方の部分」で、創意工夫をしてきたと思うんです。だから、そういった方々とつながれる人は、自分でも創意工夫をしていないとチャンスはこないのかなぁと感じます。

チカツ
全くやっていないと、宝くじですら当たりませんから。何かしらやっておいて、かつ、種を蒔いておいた上で、チャンスの確率を高めておかないと難しいかなぁ。

末吉
なるほど。在り方の部分で創意工夫をしながら、かつ、種を蒔いておくということが大切なんですね。

チカツ
在り方の部分で創意工夫をするだけでも難しいけれど、種を蒔いているだけでも難しい。

末吉
いや~、ダメですね。種蒔きばっかり、準備ばっかりになってしまっている人たちもいますので。

チカツ
創意工夫をして種を蒔いていても、チャンスが回ってこない人もいますし、種まきをしてチャンスを得ても、肥やしがないと花は開かないし。

末吉
はい、そうだと思います。

チカツ
そこは難しいですねぇ。

末吉
結局、自分で選択をするか、しないかですよね。やるか、やらないか。

チカツ
自分で選択をするような人たちは、だいたい運が良かったって言うかな。

末吉
そうですね、ほんとに、そうおっしゃいますよね。時代の流れがバチッとマッチしたりだとか。ただ時代の流れだけにマッチしても、どこかで終わる人たちもいますので。

それは、在り方の部分で創意工夫をしたり種蒔きをするといったことを、やってこなかった人たちなのかなぁと思うんです。一生懸命あとから、追いかけてやる人たちもいますけれども。

チカツ
せっかく時代の流れに乗っても、次の展開をちゃんとつくっておかないと、それだけで終わっちゃう場合も多いですし。

末吉
そうですねぇ。次の橋に投資をしておくということですよね。

チカツ
フランスから帰ってきて、絵で食べていきたいと思ったときに、遅ればせながら経済やマーケティングの本を読み始めたんです。絵で食べていきたい思うと、美術大学とか出ていない自分は講師とかは難しいので、絵を何かしらお金に換えない限り、食べていくことはできないから。

そのときイラストレーションとしては多少仕事があっても「自分の今描きたいライフワークの絵はお金に換えていくことは難しいなぁ」と、思い始めるようになりました。

結局、絵画でもイラストレーションでも「絵をお金にしよう」と思った段階から、経済活動ですから。もし絵で食べていかないで、自分のためだけの絵を描いていくなら別ですが。

末吉
なるほど、そうですね。経済やマーケティングに関する知識も必要になってきますよね。

チカツ
そうすると会社と同じで、生活のためのイラストレーションの仕事で、少しでも利益があるうちに次の新しい手を打たなければならないと考えるようになったんです。流行りが終わると、そこで終わってしまうから。

末吉
はい、僕もそう思います。

チカツ
自分のライフワークの絵でそれをやると汚れてしまうので、生活のために描く絵だけでやるようにして。

末吉
なるほど、生活のために絵を描きながら。一方で、自分が描きたい絵も世の中の人に届けていきたいから、ライフワークの絵も描いていく。そのあたりのバランスは、自分で見つけていくということですか?

チカツ
でも、それはきっと難しい。

末吉
あぁ、そうか…。ただこれから、より多くの人が、そういう生き方を求めていくんじゃないかなと思います。

チカツ
確か、どこかの作家さんがおっしゃっていたけれども、ローマ時代に芸術をやった人たちは、奴隷に働かせて自分たちは作品をつくっていた、と。

だから自分の芸術を追求したいのであれば、奴隷をつくれというわけじゃないけど、いずれ何か別の手段でできるだけ働かないで、お金が入ってくる仕組みを模索しておいたり、お金が貯まったら仕事をしないで制作に集中する期間をつくるとか。

そうしないと、当然自分の作品をつくる時間が取れなくなってしまう。会社を見たって重要なポストの人は、他の人でもできることは他の人にやってもらって、自分は自分でなければできない仕事をしていますし、お金持ちの人たちは、ただ銀行に預けるだけじゃなく、何かしらに投資していると思います。

( 若い頃からやってみたかったという銅版画の模索 )

末吉
あぁ~、ほんとにそうだと思います。

チカツ
自分の作品をつくりたい人は、若いうちから、バイトをしながらマーケティングや投資など経済のことも覚えつつ、自分の作品をつくっていくことがより大切になってくるように思うんです。

末吉
もちろん絵をお金にできないうちは、何か別の仕事をしないとならないですよね。

チカツ
何かが形になるのには、何でも10年くらいはかかります。

そういったことを考えず、俺は貧乏でもとにかく絵を追求すると闇雲では、いつまでも芽が出ない可能性だってある。自分自身もそこに当てはまっているかもしれない(笑)芸術家の場合、運良く清貧な姿勢を評価される場合もあるけど、スポンサーもボランティアじゃない。むしろ彼らからすれば「絵」っていう商品に投資をするわけです。そう、「絵」も商品なんです。結局は経済に絡んでくる。

絵って答えがないから目的も自覚しないで闇雲に描いていたら、「絵」という商品はまず売れない。そうなるとギャンブルだよね。ギャンブルだって、ギャンブルを仕事にしている人はどうやって当てるか人一倍日々研究して努力していますしね。

末吉
これ、すごく大事な話だと思いますね。

チカツ
最初の話に戻ると、結婚相手やヒモのような人がいて安定収入があれば、相手に働いてもらって創作活動は可能ですが。

賢く人一倍努力している人で成功する人は一部いるけれども、請負の仕事としてのイラストレーションでも絵だけで生計が成り立っている人の方が圧倒的に少ない気がします。講師やったり、デザインやったり。かつイラストレーションの場合でも若い世代が支える業界だから、流行り廃りもあるし一生となるとさらに難しい。

会社に勤めている分には、会社が法人税としてそれなりに国に税金が入ってくるし、ちゃんとしている会社なら保険も充実しているし、厚生年金もあるから最低限の老後の保証もある。

安易に夢だけ見てフリーランスが増えて多くの人が事業に失敗すると、国の税収はより減ってくる。個人だけのことじゃなく社会全体の経済活動の中に僕らはいるのだから。結局は絵を職業にしようと思ったら、普通の仕事と一緒。職業とした段階で「絵」という商品を販売する会社と一緒ですから、経営能力や決断力、交渉力を必要とされます。

末吉
そうですよね。僕も真剣に考えないといけないな、と思いました。経済に関する知識は、まだまだ敬遠している人たちが多かったりすると思いますし。でも、実はすごく大事なことですよね。

チカツ
デザイナーやイラストレーターは、50歳を過ぎたあたりから現場が若い業界ですから、仕事をくれていた人が引退してしまったり、異動になったりで仕事が少しずつ減っていく人も多いです。僕みたいに2人、仕事出してくれていた社長が若くして同時に亡くなってしまうこともあるわけだし。将来のことも考えておかないと。

競争率がより高くなった現在、今はまだメジャーな作家の装画の仕事がきていて、側からは成功しているように見える自分だって危機感は感じていますから。夢ばかりでなく、若いうちにやっておくからできることもたくさんあります。

( 月村了衛さんの『ガンルージュ』の装画 )

末吉
はい、本当に重要なことだと思います。

チカツ
でも今の人たちは、僕なんかより現実的で頭がいいから。そんなことわかっていて既に20代から考えているかもしれないですね。

末吉
やっている人もいるかもしれないですね。まだ少ない気はしますが。

チカツ
僕くらいまでの世代はどこか「アーティストは貧乏してでも、自分の作品を追求していくのが美徳」みたいな空気があった気がします。でも、ピカソだって時代もあったし、戦略的に成功した人だと思う。あくまでも職業として絵を描くんだったら、客観的に広くものを見て先のことも考えておかないと。

クリエイティブな仕事をしているとお金のことをとやかく言うのは、いまだに美しくないイメージがある気がするけど、絵を描いて生活していくことも結局仕事だし、経済のことも学びながらやっていかないといけないんじゃないのかなぁ。

いい絵を描けるよう努力していれば、結果は後からついてくるって思ってたけど、もうそういう時代でもない気がします。実際に絵の仕事に切り替えて自分自身がピンチになって、よりそう思うようになったんです。

末吉
だからこそ、少しでも自動的にお金を生み出すシステムだとか、基盤をつくって活動する「道」もあるんじゃないのかということですよね。

チカツ
そうですね。「いいものさえ創っていれば、いつかは誰かが」という他力本願なやり方では、ほとんどギャンブルだから。確実にやろうとすると、絵がおもしろくなくなっちゃうと思うかもしれないけれども、まず生きることが前提にある。絵や何かを創ることは、結局は生き方だと思うんです。

お金がなくなってしまうと、自分の作品をつくっていけないし、いいものを見聞きしないと精神的にも貧しくなる気がします。

末吉
先ほどおっしゃっていたローマ時代のお話のように、誰かが働いてくれる裏というか、その上で絵を描くことが大切になってくるんですね。

チカツ
今の時代に誰かに働かせるっていうは問題あると思うので(笑)ものに働いてもらう。たとえば、1つのものが複製で売れるようなものとか、複数回利用されるとか、貯蓄を普通預金でなくもっと効率良いものに変えるということでも同じです。

きっと何の仕事をしても、自分が作業して稼げるお金には限界があって。家事をしてくれる家族や子供がいるなら家族の分も稼がなければならない。ひとりだったら自分が働かなきゃいけなくて。

末吉
結局、やることもやらなきゃいけないし。基盤をつくって活動する「道」もあるという考え方は、持っておいた方がいいだろうなぁと思います。

チカツ
クリエイティブな仕事にかかわらず、日本人はお金のことをいうことは美しくないというイメージがありますが、自分がとにかく自分の絵を描きたいとやってきて、ピンチになって、つくづくお金のことは重要だと思いました。

とはいえ、お金お金や効率効率では作品もつまらなくなる。その辺は常に模索しながらになるのでしょうね。

なんにしても、一番は続けること。
そして楽しむこと。

( チカツさんが絵を描いている写真 )

目標と目的をもって、少しずつでも前進しながら続ければ、たとえ時間がかかっても必ず「道」は見えてきます。理系の出身で絵の才能はないと思う自分ですら、20代の頃に思っていた以上の仕事は経験できたわけですから。

末吉
生活のために絵を描くことと、ライフワークの絵を描くことのバランスを、どう取るかということですね。

( おわり )

【 profile 】
チカツタケオ
デザイン事務所数社に勤務の後'98年よりフリーランスイラストレーター、デザイナー。'06年青山塾イラストレーション科修了。’06年9月〜'08年2月南仏Aix en Provence滞在。’07年ザ・チョイス年度賞優秀賞。'09年第8回TIS公募金賞。

CHIKATSU's works

【 website 】
http://www7b.biglobe.ne.jp/~chikatsu/index.html


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レット・イット・ビー
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物書きや編集者もやっている、偶然の風に吹かれて生きる旅人。同人誌『ブンガクフリマ 28ヨウ』に短編小説が収録されています。ツイッターも。https://twitter.com/hiroomisueyoshi
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